33歳の波子には、ふたつの実家(であって、正式にはそうとは言い切れない家)がある。
父母は離婚しており、
父とその再婚相手の女性と腹違いの妹の家と、
母とその再婚相手の男性と腹違いの弟の家。
両方の家ともそれぞれのトーンで交流している波子。
そんな彼女の家庭は、結婚6年目の外科医の夫との
2人暮らし。夫婦仲はよく、穏やかな日々を送り、パートで
薬剤師の仕事をしながら、幸福に暮らしている。
しかし、時々食事をする(夫と波子夫妻と、相手もそのときの
恋人を連れて4人で)、夫の親友高槻にふいにキスされ、互いに
心惹かれていることに気づいてしまう。そして、高槻との関係は危ういほうへ…
前半は、波子の家庭の事情、離婚した両親とその子たちとの交流、そして
穏やかな夫との日々が淡々と語られています。そして高槻との
不意打ちのようなキスで恋に堕ちるところからは、既婚者ゆえの深刻な
小説になります。物語は意外な(と思ったけどあとで考えたら納得の)結末に。
不倫ものとしてさほど新鮮なお話ではないのですが、この人はダメ、という人に
ハマっていく過程や、夫を愛しているけどそれはそれ、と不倫の性愛に
のめりこむ感じは、経験は無い私が読んでも「ありえるかも」って思えるくらい
臨場感がありました。
両親の離婚で家族関係が複雑になった波子が、自らの結婚生活もややこしく
してしまうような恋に戸惑う様子が丁寧に描写されています。
考えたら、野中柊という作家は「アンダーソン家のヨメ」とか「ヨモギ・アイス」
など、初期は、国籍の違う結婚をテーマに、家族のあり方を淡々と的確に書いていて
注目されて文壇に登場したわけで、その後、多くの恋愛小説を書いて、このような
家族と恋愛、についてきっちり描いた小説にたどり着いたんだな、と思う。原点に
戻ってきた感じ。ふうわりとした恋愛onlyのストーリーより読みごたえアリ。