私は非平衡統計力学については門外漢ではあるが、この小本は非常に興味深く読むことができた。前半はプリゴジンの人と背景を、北原氏の個人的な視点を織り交ぜつつ俯瞰するものであり、一方後半はプリゴジンの考えてきた問題と彼のその問題に対する解答、到達点とを平易な言葉で解説するものである。
前半については、北原氏の人柄を反映するような丁寧な語り口によって、今まで(教科書で)知っていた名前の物理学者とプリゴジンの関係がついていったり、フランスの知っている場所が出てきたりして面白かった。しかし、やはり重要なのは後半である。驚いたのは、重要な物理的概念、例えばボルツマン方程式やBBGKY階層、そしてもちろん散逸構造などが、数式を全く用いることなくわかり易く説明されていることだ。そして、随所に簡潔で深い記述が目を引く。例えば、
「平衡状態においては、平均値の周りの揺らぎはつねに平均値に向かって崩壊している」
「不可逆性は系に本質的なのであって、粗視化などの近似の結果ではない」
などといった言葉が見られる。私は門外漢ではあるが、ここで議論されている物理や問題は十分理解できるものだと感じたし、その魅力も十分に伝わった。この本は、プリゴジンの著作へと移行していくのに非常に良い導入となっていると思う。