山岸真編のグレッグ・イーガン短編集としては、まさに衝撃的な遭遇だった『祈りの海』以来の面白さでした。『ひとりっ子』が個人的にはいまいちだったので、あまり過剰な期待はしないでおこう……などと思いつつ読み始めた巻頭の「クリスタル・ナイト」――サイバー時代の「フェッセンデンの宇宙」譚――の疾走感と密度にいきなり引き込まれ、あとは最後まで一気に読めました。残りページが少なくなるのが寂しい、と感じた読書は久しぶりです。
たぶん集中の最高峰「ワンの絨毯」は、『ディアスポラ』に組み込まれた、あの気の遠くなるようなエピソードの原型です。そう、ほとんどの人類が肉体を脱ぎ捨て人工生命化している未来で、物質の手触りに意味を見いだす連中が地球外生命体との遭遇を求めて深宇宙へと自分たちのクローンを散種する。そして終に出会った不可思議な生命体は、実は……という、希有壮大にして超ハードな疑似科学が炸裂する、しかもなぜか静かな悲しみさえ漂う、現代SFの傑作です。表題作「プランク・ダイヴ」も、ブラック・ホールへの下降というハードなメイン・アイデアの背景として、安易な科学嫌悪にはまっている老人とその世界から抜け出したい娘との葛藤という、ニセ科学問題など考えると何やら身につまされる設定が描き込まれて、物語に奥行きを与えることに成功しています。ラストシーンには鳥肌が立ちました。そして巻末に置かれた「伝播」は、短い宇宙ものですが、ラストにはイーガンの、というより、これこそSFの魂そのものではないかと思えるような必殺の一行が置かれて、大昔、素朴なSF少年だったときに一瞬戻ったかのような感動を味わいました。
イーガンは、ハードSFとしてはクラークの後継者的側面をもっていると思いますが、僕としてはデーモン・ナイトに通じるような得も言われぬ「向こう側」感というか、何をどう感じればいいのか、読者を呆然とさせる世界観をぽんと投げ出すようなところが素晴らしい。ストーリーテリングも巧み、疑似科学的なペダントリーも魅惑的、キャラも立ってるし、しっとりした感動もある。早く新作、でなくてもいいから、また未読の作品が読みたいなあ、と思いました。山岸さん、よろしくお願いします。