名ベーシスト、ジョージ・ムラーツを主なコラボレーターとしてプラハに出向き、現地のドラマーと弦楽器奏者を得て録音した意欲作。録音も良く、繰り返し聴けば聴くほどジワジワと良くなってくる傑作だ。
木住野佳子(p)、George Mraz (b), Pavel Zboril (ds), Strings Section, String Quartet
ジャズ/ピアニストにとってベーシストというのは最も重要な相方、相棒である。木住野さんはデビュー作の「フェアリー・テイル」で、ビル・エバンスの相棒だった2人のベーシスト、エディー・ゴメスとマーク・ジョンソンと共演、国内でも安カ川大樹や鈴木良雄といった名手を得て作品を発表している。そんな彼女が今回相棒に選んだのはプラハ出身のベテラン、ジョージ・ムラーツ。抜群の安定感と、どんな状況にも対応できる柔軟さを持ち合わせたベーシストで、数え切れないくらいたくさんの作品に参加している。
本作の軸となる2人に絡むのは現地調達(?)と思われる若い無名の(しかし優秀な)ドラマーと、木住野本人がアレンジしたストリングス。曲によって12人のセクションと、カルテットを使い分けているが、この演奏がまたすばらしい。
1曲目には本作の魅力が満載だ。イントロのピアノ、そして次に入ってくるストリングスの音が美しいことにまず驚かされる。トリオとストリングスのバランスは絶妙だし、疾走感のあるピアノソロもかっこいい。
僕が一番好きなのは8曲目、ベースとのデュオで演奏したエバンスゆかりの「ブルー・イン・グリーン」である。ピアノの導入部、最初のいくつかの和音が天にも昇るようなハーモニクスを作り出し、その美しさだけでまず感動してしまう。そして息づかいまでがきこえてくるムラーツのソロ。主導権がどちらにもあるのかちょっとわからなくなるような、絶妙のデュオ演奏である。
ストリングスの麗しいイントロで始まる9曲目もいい。そして木住野さん恒例の、アルバム最後を飾るピアノソロ、今回はプラハ出身のドヴォルザークによる「家路」である。これほど見事に録音されたピアノソロはちょっとないんじゃないかと思う。クライマックスの2つの和音が泣きたくなるほど美しい。
音の良さも本作の聴きどころのひとつだ。ハイブリッドSACDだが、音の良さにこだわったアナログ録音。深く豊かで、奥行きと広がりを感じさせるストリングスの音、迫力があるが不自然に強調されてはいないベース、軽やかなシンバルワーク、そして美しいピアノの響き。内容ももちろんだが、音の美しさだけで人を感動させる力を持っていると思う。