白背景に舞い飛ぶピンクと紫のグラデーションを帯びた蝶の群れ、手を繋ぎあって墜ちていく少年少女。
ラノベらしからぬ幻想的で透明感ある表紙に惹かれました。
挿絵がないので取っ付きにくいかもしれませんが、この作品の場合はこれでよかったと思います。
下手に萌え絵師なんか使ったら雰囲気壊れます、絶対。
前髪をぼさぼさに伸ばし奇矯かつ奔放な言動で他人を翻弄する由良と、そんな彼に執拗に付き纏われなし崩し的に無理矢理吉野彼方の自殺の真相を探り始めた平凡な高校生・榎木戸。
正反対の二人の掛け合いは序盤から軽妙洒脱な台詞の応酬で魅せてくれます。
ミステリーとしてもなかなか心憎い仕掛けが施され、吉野の死の真相が明らかになる対峙のシーンは緊張感に手に汗にぎります。
だけどこの小説が真に憎いのはその構成の妙。
第一部が吉野彼方の死を発端にした死後の物語なら、第二部は生前の吉野彼方の視点で語り直される物語。
クラスで孤立し家にも居場所がなく、一人悩みを抱え夾竹桃の写生に逃避する彼方にちょっかいをかける由良。
最初はそんな由良を疎んじていた彼方が、他愛ない触れ合いを通し徐徐に心を開いていく過程は、丁寧に溶いた水彩絵の具さながら淡色の優しさに満ちあふれている。
だからこそ切ない。
たまらない。
第二部終了時点から本当の意味で始まるはずだった二人の物語は、第一部冒頭でむざんに断ち切れてしまう。
彼方が由良に惹かれていけばいくほど、由良が彼方を振り回せば振り回すほど、二人に待ち受ける不可避の未来が脳裏を過ぎる。
プシュケとはギリシャ神話に出てくる人間の娘。絵画では蝶の翅をもつ乙女として表現される。
蝶は霊魂の導き手。
蝶の翅もつプシュケは地に墜ちず空を舞う。
読み終わったあと、表紙を見返して切なくなった方は、ひとつ試してみてほしい。
本をひっくり返し改めて表紙を見て欲しい。
ほら、まったくちがう絵が見える。
蝶の群れに運ばれ飛翔するプシュケを、踊り戯れるように地上に繋ぎとめるその手は、彼女が恋した少年の手なのだから。