最近気になっているブータンという国の、当事者による本。
もうそれだけで、非常に興味がわく。
この本自体は、何か意見を提言しているようなものではなく、
基本的には「僕はこんな暮らしをしてきた」というのを丁寧に綴ったものに近い。
印象的なのは、著者(大学を出て、旅行会社に勤めているブータンの「現代人」)の世代は、
ブータンにおける「中世的世代」と「新ミレニアム世代」の過渡期なのだ、と述べているところだ。
ブータンという国においては、「中世」と「現代」が隣り合わせなのだ。
どこの国にも存在する、いわゆる伝統的価値観と先進的経済的価値観との葛藤が、
この国では緩衝的な移行期間をほとんど持たずに表出している。
それ故に、もっとも純粋な根源的な形での葛藤がみられる、とも言えるだろう。
先進的な合理主義を知ってしまえば、伝統的な価値観が必ずしもいい、とは言い切れない。
けれど、祖母が持っていた価値観が、取るに足らない、くだらない迷信だなどとは思わない。
そうした、著者の素直な葛藤が、とても示唆に富んでいる。
「大切なのは、三つの毒、すなわち貪欲、憎悪、無知に侵されないようにすること」
そう説く伝統的精神が、合理性の下に消えていくことは、おそらく幸せなことではないはずだ。