作者は新装版と文庫版の後書きで、自分が書いた最も馬鹿馬鹿しい小説と称し、その後これ以上馬鹿馬鹿しい小説を書けていないことを繰り返し反省している。その後さらに三十数年、全ての井上作品を、ましてや全ての日本の小説を読んでいるわけでもなんでもないが、おそらく未踏記録は本人だけでなく他の誰にも破られていないだろう。ひょっとして世界でも・・・
読んでいてそう思わせるだけの「バカの極北」ともいうべきナンセンス・コメディなのだ。
ラジオミュージカル台本にもとづく、井上ひさしにとっても処女小説なのだが、全然「小説化」ということを意識していない適当きわまる書き方で、歌詞をバンバン挿入した「ミュージカル小説」(そんな言葉ないけど)になっている。その歌詞も、いわば書き殴りに近い感じ。同年の戯曲「表裏源内蛙合戦」の「バイバイ士農工商」のように、読んでいて「音で聴きたい!」と唸らされるような凄みや洗練こそ無いものの、勢い、リズム、その「不敵ないいかげんさ」、まばゆいほどに煌いている。自身による続編戯曲が遠く及んでいないことも含め、笑いの文学において永遠の未踏峰になるだろう。