かなり凝った枠物語です。
おまけに、レトロな「モノ」語りのジャンルかと思ったら、超能力あり、「ローマの休日」あり、おもちゃ箱がひっくりかえったような、しかも結論やはっきりした幕引きがない、開きっぱなしの物語です。さらに、文体は翻訳小説のパスティーシュを狙ったふしもあります。
「あのとき」を取材にくる作家。舞台はブロードアレイ・ミュージアム。語られるのは1920年代。
そこは知る人ぞ知る、美術品から、有名人のメモリアルから、どうやって撮ったのかわからない空想的な写真まで、不思議なものがいっぱいの場所。博物館であっても売ったり買ったり、レンタルしたりできます。
「サッチモのクラリネット」「ラリックのガラス細工」「ベーブ・ルースのボール」「シャネルの0番」「リンドバーグの帽子」こうしたタイトルから、収蔵されているそうしたなつかしい「モノ」にまつわるちょっといい話をつづってあるのかと思ったら、大違いでした。物語は過去ではなく、その品物をめぐってこれから起きるのです。語り手ふくめ、そこに住んでいるキュレーターたちはみんな訳ありの、少し裏稼業に携わっていたり、公安を背負っていたりのうえ、謎の同居人の少女フェイはこれは、と思うものに触ると、それが引き起こす災難が見えてしまう超能力者。
しかしそれを口に出して説明すると、その事件は起こってしまうので、博物館の面々はフェイの顔色を見ながら、推理力を働かせ、事件を解決、というのが各話のすじです。そして超能力少女フェイの正体は・・・
設定もメルヘン風なら、関わる人たちの設定もメルヘン、起きる事件も、昔なつかしいギャングの親分が女を追いかける話とか、過去のある富豪に復讐しようと香水を利用する男とか、古きよき映画を思わせて、やっぱりメルヘン風味です。それは事件や人そのものがというより、過去を遠望するというまなざしから生まれてくるメルヘン性かと思います。
ちょっと、いろいろなものを詰め込みすぎた福袋かもしれません。が、最後に聞き役の作家の正体もわかり、全員がこのミュージアムの中へ吸い込まれていって、セピア色の記念写真に、カシャッとおさまる、そんな感じがします。
古い映画やジャズの好きな人にはなつかしさを、そして小説という仕掛けの好きな人には、レトロを二乗で描いた趣向に対する微苦笑を、もたらしてくれる作品でしょう。名作「東京バンドワゴン」シリーズの舞台も古書店でしたが、著者は古いものに対する、おだやかで焦点距離の長い目線をもっていて、それがメルヘン的な設定にも奥行きを与えている気がします。
(おまけの外伝「ドラキュラのマント」は「いま」の話でした。フェイが帰ってくる続篇が待たれます。)