ただ立っているだけで笑いが取れる俳優、ビル・マーレイの情けなさと、とぼけた虚無感を終始前面に出した映画。マイアミ・バイスの主人公と一文字違いの主人公に届いた「あなたの子供がいます」という差出人不明の手紙を元に、20年前に付き合っていた4人の女性達を訪ねるロードムービー、ということになるのだろう。
ビル・マーレイを起用したとぼけた映画であれば、どうしてもウェス・アンダーソンの映画(『ライフ・アクアティック』など)と似た印象を一部持ってしまう。例えば、今作で主人公はフレッドペリーのジャージを着ているがアンダーソンの『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のアディダスを連想させるというように。
しかし空虚さの度合いがアンダーソンの作品よりも絶望的に深く、過去を辿る道程で現在の自分を再発見しようといった目的意識は皆無で、それが今作のユニークな魅力となっている。
女性達の家や家族、短い会話の内容は、それぞれが主人公と別れた後の20年間の人生を想起させる見事な描写だし、アメリカの田舎の枯れた色彩感と、その中にある特別美しくもないピンクの花束は、空虚を通り抜けて美しい。
そもそもゴールも教訓もない映画で、事件も無く何の達成も発見もない空虚さを、映像芸術に昇華するジャームッシュの才能には毎度のことながら驚かされる。 マーレイ&ジャームッシュは、このジャンルでは無敵のコンビだ。