ベックのフル・インストルメンタル・アルバムの中で最もブルージーさが際立つ傑作。 ベックのインストは、基本的には昔から変わらす上手で、速いパッセージならジェフズ・ブギー、メロウな曲ではディフィニット・メィ・ビーなど本人のポテンシャルは普遍だったと思います。ただ、このアルバムのように、ベックのその才能に着目して曲やバック・ミュージシャンをキチンと固めて演ったことに意義は大きく、そのまま以後のベックのスタイルを決定づけた素晴らしい作品に仕上がっています。 スティービー・ワンダー作曲の「哀しみの恋人たち」、文字通り精神錯乱状態をうまく表現した「スキャッター・ブレイン」、ウォーキング・ベースが印象的な「フリーウェイ・ジャム」など佳曲が目白押しです。 スタイルを変える際に「傑作」が生まれるのは他のミュージシャンでも枚挙にいとまがなく、例えば、マイルスのカインド・オブ・ブルーもそうです。以前からのスタイルと新しい試みがギリギリの線で折り合いをつける緊張感。これはスタイルの変更が認められた後(ワイアード以降)では味わえない抑圧された緊張感を漂わせています。 次作のワイアードと本作は甲乙つけ難いですが、両者のキャラクターの差異を決定付けているのはキーボード。本作のマックス・ミドルトンがアルバム全体のテイストを限りなくブルージーなものとしています。「良し悪し」よりも「好き嫌い」の問題ですがヤン・ハマーにやや違和感を感じる私としては、次作よりも本作の方に軍配をあげたいと思います。