1958年に生まれ、首相公選制を考える懇談会の委員を委嘱された経験を持つ行政学者が、2005年のイギリス滞在経験をもとに、森嶋通夫『サッチャー時代のイギリス』の続編たらんとする意図のもと、日英政治の比較も念頭に置いて2005年に書いた新書本。ブレア首相率いるイギリス労働党(ニューレイバー)は、新保守主義を掲げるイギリス保守党に連敗を喫した経験から、国有化路線の放棄、ビッグテント戦略に代表される党改革を断行し、「第三の道」路線を掲げて政権を獲得した。それはグローバル化の中で矛盾をあえて引き受け、単純な二分法を乗り越えて、市場と福祉を両立させる路線であるが、それゆえに責任の所在も曖昧になるという欠点を持つ。ブレア政権は勤労意欲のある者の為のきめこまかな環境整備とそのための教育重視(介入)政策を打ち出し、地方分権、市民との提携による多孔質な政治を展開し、貧困国の債務問題や地球環境問題等にも積極的に取り組む一方で、政治の人格化、情報操作によるイラク参戦、人権を制限する治安対策、大企業への譲歩、公約違反等をも引き起こし、賛否が分かれている。著者は社会によるリスク管理の一つのあり方としてブレアのアングロ・ソーシャル・モデルを評価する一方、それが明確な理念による体系化を欠き、メリトクラシー最優先の政治であることを批判している。また、それを踏まえて、小泉政権の功罪、日本メディアの問題、民主党への提言をも論じている。現代日本政治についての多くの著書を持つ著者ならではの深い知見が見られる読みやすい本であり、イギリス政治やブレアの多様な顔をありのままに見据え、そこから様々な教訓を引き出すことを試みたという本書の意図は、確かに達成されているように思う。ただ、散見されるグローバル化との関係をもう少しまとめて提示してくれる方が分かりやすい。