上巻のハードボイルドから下巻のハイスピード・ノワールへの転換は
作者自身が「後半は馳星周になっちゃいました」と言っていますが、
残念だったのは硬質な探偵小説が貫けなかったことよりも、SMに
ついての扱いが凡庸なものとなってしまったことです。
言うまでも無くSMは倒錯の世界であり、それゆえにプレイヤー
(という言葉が適切かどうかわかりませんが)の内面に入り込んで
心理描写が描かれることは他の作品でも目にすることが多いです。
しかし、共感でもなくドン引きでもない「適切な距離感」で、SMを
外側から描き切った作品は、私の読書体験の中にはありませんでした。
適切な距離感を保つには、全てを他人事のようにクールに対象化し、
何事にも動じない度胸を持ち、かつ、内面について共感ではなく
「理解」をする知性を持った−まさに上巻の徳永のような人物に
しか語れなかったと思われるだけに下巻の転換は残念でした。
後半の展開はまことに安定感があり「いつもの」という以外に形容でき
ませんが、SMの扱いは殺し屋1とか先行作があるのではないかと
思いました。
蛇足ですが、ラストは女性直木賞作家のブレイクスルーとなった、アレ
がモチーフになってませんかね?