深く、濃く、渋く、黒い。歌謡曲的な色はすっぱり切り捨て、ミュージシャンとして自分のやりたいことをやるのだと宣言したようなアルバム。と言っても、どこか親しみやすい部分も十分感じさせる。
1曲目「ゆうべ私が死んだいやな夢を見たのさ〜」と語りかけてくるマイナー・ブルース「Blue Spirit Blues」が最高だ。萩原信義のアコースティック・ギターの多重録音が効いている。恐い歌詞だけど、これに引きずり込まれた人は多いはず。
2曲目のスウィングする「難破ブルース」、これがまた素晴らしい。「ンーン、女が荒れているときゃやらせておきなさい…」、初めて聴いた頃、「軟派」じゃなくて硬派なドライヴ感が、これまで効いてきたヤワな歌を蹴散らした。その衝撃は若い脳味噌を刺激し、音楽的嗜好に影響を与えた。
この2曲と「ハスリン・ダン」はベッシー・スミスが原曲だそうだが、原曲も聴いたけれどここではマキ流に大きく作りかえている。古いブルースをモチーフにして最創造したマキの歌だ。
その「ハスリン・ダン」はもう一つのハイライト。ギャンブラーに惚れた女のブルースをぐいぐいとしたスウィング感で引っぱる。これも萩原のギターが切れまくる。
自作曲の「あの娘がくれたブルース」と「大砂塵」はこの中で最も歌謡曲的だが、緊張の続く流れの中でほっかりできる。じわじわと沁みてくる小唄だ。アルバム全体のいいアクセントになっている。
山下洋輔のフリーなピアノが暴れるビリー・ホリデイの3は、その歌詞の内容からも聴くのがつらく、アルバムの流れも断ち切っている感じがするが、後の方向を先取りしていたことを思うと興味深い。
ダルな「ページ・ワン」や、バンドとシャウトする「町」も聴き応えがあり、やっぱりこれは傑作だ。個人的には「裏窓」「灯ともし頃」そしてこの作品を浅川マキの3大名盤と呼びたい。