最初、うまくいっているようにみえる。夫は仕事をしていない風情で、妻は(その表情から見て)かならずしも生活に満足している感じではないが、全体としてはどこにでもいる夫婦の雰囲気だ。しかし、娘の愛犬が失踪したあたりから、おかしな雰囲気になってくる。
描かれるのはわずか24時間の出来事。本作の特筆すべきは、ありがちなドラマのように、何か明確な原因があって、関係が悪くなっていくといった描き方をしないところ。
過去の出来事が、出会いから、ぎこちない愛の告白、希望に満ちた結婚と、手持ちカメラで手持ちカメラで生き生きと自由に撮られているのに対し、現在のパートは固定カメラで息苦しいほどの緊迫感を持ってとらえられている。
ディーンは優しい人間で、シンディを愛しているが、シンディのほうは、屈折がある。二人は、愛しあって結婚したのだが、実は訳ありの結婚であった。シンディにはそのことがトラウマになっているらしい。シンディは生活に疲れている気配がある。仕事と育児。生活を支えているのは彼女らしい...。
夢中で愛し合った過去と、生活に押しつぶされそうな現在、そしてある決断の末に何かが始まる未来へ。一組の男女の気持ちの移ろいを、残酷で美しい時間そのものを主人公にして物語る。
壊れかけた夫婦の、やるせない現在と幸福な過去の対比がリリカルで美しい。痛ましいストーリーなのに、不思議とみずみずしさが記憶に残る。美しいフラッシュバックはいくつもあるが、特に、店のショウウィンドウ前で、ディーンがウクレレを片手に "You Always Hurt the One" を歌うシーンがいい。
シンディは別の男との間にできた娘の父親になってくれたディーンに対して負い目がある。一方、ディーンは、仕事や収入に関して妻への引け目がある。二人とも娘を深く愛してはいるのだが、日々の暮らしの小さな不満と不安が、じわじわと上がる水位のように夫婦を侵食してしまい、気付いた時には身動きできなくなってしまっている...。
それにしても、やっぱり、最終的にはハッピーエンドではないわけで、なんだかやるせなさが残る作品ではありました。