西アフリカから植民地アメリカに連れ込まれ、未知の文化の中で生きはじめた黒人がアメリカン・ニグロとなって合衆国の中で生きていく様子、その中で独自の音楽をどのように生み出したのか、そして黒人社会をどう形成し、それはどう変化したのかといった歴史を分析して示した著書。今になって読んだが、今だからこそ思い浮かぶことがある。
その内容はといえば、まず全体にゴッフマンの「スティグマの社会学」で示されていた行動の類型を詳しく描写したケーススタディとして読み込むことが出来て、その読み応えについて本人は否定するかもしれないが優れて社会学的な組み立てを持った書物で、解説の人が言及しているチャールズ・カイルの「アーバン・ブルース」にとても感触が近い。黒人中産階級についての分析が特に印象に残った。また、ブルースとはいいながらジャズについての説明が多いのも気になった。
そうした社会内のポジションの独自性から黒人音楽の特徴を一種演繹して説明して見せる箇所は、実に納得的だが黒人ではない立場からはその筆致に距離感を感じてしまうのが実際のところだ。解説の人もそんなところを上手く論じているが、やはり何か無理している言い方になっている。
もちろん著者の意見にそのまま乗っかっていけるわけではないが、ブルースを聴いていくと、言葉のニュアンスや形式、楽器のフレーズなどよりも伝わってくるものがあって、そこに照準を合わせて聞いていくと他の音楽では決して得ることの出来ない類の心境に達することがある。その心境は上手くいえないし上手くいいたい気もないが、自分の中のおまじないというか精神的なつっかえ棒になっている。思えばブルースというのは音楽ジャンルの中でも珍しく心の状態がジャンル名になっているが、生きていくうえで決してなくはない憂鬱の中で心を生き延びさせる効果があるのだと自分はおもっている。そしてこの効果は、日本のポップスだとほとんど感じることが出来ないのが本音だ。
ブルース音楽そのものではなくその奥にある人間や社会のありさまについて多くを教えてくれる一冊。