クラッシク音楽(オペラを含め)の生の音楽を聴いた機会は何千回もあるが、
生涯の中で最高のものは何かと尋ねられれば、それはマタチッチがN響を最後に指揮したブルックナー第8番だと答えたい(1984年3月定期公演、NHK
ホール)。
ブルックナーは大器晩成型のオーストリア人で、当初教師職にあり、プロの音楽家としてのデビューは31歳でリンツの教会オルガニストに任命された時、自作交響曲の初演(第1番)は44歳の時とされる。また47歳(1871年)パリとロンドンにおけるオルガン即興演奏では、満堂の聴衆(サンサーンスらを含め)を感動させた記録が残されており、当時世界最高のオルガニストだったといえるのではなかろうか。
ブラームスとほぼ同時代に活躍したが、和声法と対位法の信奉者で生涯独身だったが、酒と美食と美女に心ときめかした(10回ちかくも求婚したとの逸話がある)巨匠といわれている。
ブルックナーの交響曲を聴いて感激する時の様子は、主要動機の繰り返しと、フルオーケストラによる全力演奏ダイナミズムの高揚のうちに、感動の渦が身体中に溢れ出てくる(ひたってしまう)とでも言えようか。弦楽器のうねりを超して金管群が鳴り響き、身体全体が音の中に吸い込まれるかのようだ。
筆者が聴いた演奏会については、当日演奏した徳永兼一郎(チェロ)が「ダフ屋まで出て、すごい演奏会になり、聴衆の反応も未だかってない程燃え上がり、N響メンバーも一人一人が今終わったばかりの奇跡の感激を味わった。」記している。2009年2月池辺晋一郎がN響50年の歴史「思い出の名演奏」特番でも、わざわざ当日の演奏をビデオ放映していたのが記憶に新しい。
他にも、安永徹がコンサートマスターとして参加した1984年ベルリン・フィルのブルックナー第8番の演奏(指揮者ジュリーニ)で、「弾きながら自ら感激してしまうと、余分な動きがなくなり、腕や指に全感覚が集中し、演奏の仕方について知らぬ間に啓示を受ける。」と弾きながら自ら感激したことを告白している。