ブラームスのたった一曲のヴァイオリン協奏曲はベートーヴェン、メンデルスゾーンのものと並んで三大協奏曲として名高い。当時の大ヴァイオリニスト、サラサーテの演奏を聴いたのが作曲の直接の大きな動機と言われ、かのヨアヒムとの仲違いする原因となったヴァイオリンの扱いに関するいざこざでもよく知られる曲である。作曲時期は第二交響曲と同じ頃で、調性も同じニ長調(ヴァイオリンにとって最も良く響く調性)、のびのびとしたおおらかな流れと鋭さ、哀感などの全体の基調の点でも第二交響曲とよく似ている。しかし、第二交響曲に比べいまいち分かりづらく、取っ付きにくい曲である。ベートーヴェンのような清澄さ、崇高性があるわけでもなく、メンデルスゾーンのような美しい旋律美があるわけでもない。一言で言えば、渋いロマンというのであろうか、一度聴いてなかなか魅力が分からない曲でもある。そのため、演奏する側も聴く側も難しいのであるが、このオイストラフとセルの演奏はこれを初めて聴く人にとっては良いのではないだろうか。
オイストラフはその骨太で温かみのある、風格を備えたヴァイオリニストとして評価されたロシアの大ヴァイオリニストである。この演奏でも力強く、大きな風格を備えたヴァイオリンが聴かれるし、明るすぎず、洗練されすぎない音色と響きはブラームスにぴったりである。セルの指揮も精緻で力強いがモーツァルトの交響曲の演奏などで見せる洗練な響きはここでは影を潜めている。この曲を演奏する場合はこちらの方がしっくりくると私は思う。そして全体を通じて充実した内容であるが、録音がお世辞にもあまり良いとは言えない。EMIの録音は総じてあまり良いとは言えないのだが、この録音では全合奏の部分などで音が割れてしまっている箇所が幾つかある。また、オーケストラとヴァイオリンの音量のバランスが若干不安定である。古い録音であるから仕方ない事であるが、やはり素晴らしい演奏であるから、できれば良い録音で聴きたいものである。ぜひ、一度じっくりと聴いていただきたい。