ブラームス最晩年の傑作クラリネット・ソナタが、パユの精緻な演奏で、元来の枯れた美しさとは異質の、透明でリリカルな美感を現わし、ブラームスの未知の傑作が新発見されたかのよう。
クラリネット原曲が作られたのは1894年。すでに『牧神の午後への前奏曲』や『ジムノペディ』が出現している時代。この遅れてきたロマン主義のメランコリーは、作曲者自身の晩年感情でより枯れた哀感を湛え、クラリネットのほの暗い音色に似合っている。
そうした情感を、パユは、フルートの軽く明るい高音域を抑え、ヴィブラートも控えながら、フルートの中低音域の多様な表情を活かして捉えています。
しかしそれ以上に、パユの完璧な技巧とセンスに支えられたフルートの繊細な響きで、旋律線がクラリネットの場合より際立って、ブラームスの重層的な構成美が原曲以上に透明に現われる。その結果、一方で、この後期ロマン派のトーンに潜んでいた、アールヌーヴォのアラベスク美学という時代の感性の、耽美趣味の木霊さえ、仄かに浮き出す。
同時に他方で、パユの精緻極まりない造形と完璧なテンポ感は、後の無調音楽以降の抽象美まで暗示するクールな美感をも呼び寄せています。ブロンフマンのピアノも良く絡み合っている。
こうして、多くのクラリネット盤やヴィオラ盤と並べても特異な価値が誕生して、この曲のベスト盤の一つとなっています。この二つのソナタは、近頃、様々なフルーティストが挑戦し始め、フルートの定番となりつつありますけれど、この演奏を超えるのは至難でしょう。
ライネッケのソナタ「ウンディーネ(水の精)」もとても精緻なアラベスクで、世紀末美学を見事なタッチで描いています。しかし、この曲が持つ、官能的で幻想的雰囲気には、少しクールすぎるかも。この曲には、グラーフの透明な極上の神話的な響きや、ゴールウェイの煌く官能美などの方がふさわしい。
近年、ニュアンスが一層多彩になったパユ。その精緻なニュアンス・コントロールと見事なテンポ感が生む瑞々しいリリシズムには、グレン・グールドに通じる稀有の美感が感じられます。
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