ハイセンスな映画は、導入部で判る。
旅客機の客室。血みどろの惨劇の現場に、平然と佇む美しき女性3人。ハッチを蹴破るや、眼下のベルリンの夜景めがけて次々と降下してゆく。
タイトルバック、'90年代のラブ・パレードから映画は始まり、時代はゆっくりと逆行してゆく。'20年代の、サイレント映画の時代。さらに250年の時を遡り・・・このオープニングは、登場する女ヴァンパイアたちの歴史を物語っている。
去年公開された時、ポスターのデザインがあまり品のいいものとは言えなかったため、ありきたりな女ヴァンパイア映画のような印象しか与えず、非常に損をした映画だった。正直『ブラッディ・パーティ』というタイトルも陳腐すぎる。DVDのパッケージは幾分ましになったが、やはりこの映画が意外な名品だという事は中々伝わらないのが残念なので、思い切り援護射撃レビューを書く次第。
母親と二人で、ベルリンの集合住宅で暮らすレナ(カロリーネ・ヘルフルト)。しかし母との仲は冷え切っていて、レナは毎日のように盗みを働いて暮らしていた。そんなレナに興味を抱く、捜査官のトム(マックス・リーメルト)。レナはある夜、ナイトクラブで不思議なオーラを放つ女性、ルイーズと出逢う。「貴女には特別な何かがある・・・」言うや否や、首筋に咬みつくルイーズ。レナは彼女を突き飛ばし、自宅に逃げ帰るが、やがて彼女の身体に異変が起きはじめる・・・太陽の光に当たると焼けるように熱く、無性に生肉や血が欲しくなる。理由を知りたくて、再びルイーズの元へ向かうレナ「私に何をしたの?」
そこには、ルイーズと同じ性質の仲間が2人いた。美しき女ヴァンパイア。レナもまた、彼女たちと同じ「夜の世界」に踏み込んだのだった・・・。
この映画には、主人公含め4人の女ヴァンパイアが登場する。
レナ(カロリーネ・ヘルフルト):主人公。貧しく、みすぼらしい自分の容姿にコンプレックスを抱いているが、吸血鬼になる事で自尊心を取り戻し、急速に美しくなっていく。その一方で「人の心」を捨てきれず、苦悩する。
ルイーズ(ニーナ・ホス):18世紀から生き続けてきたヴァンパイア。リーダー格で、冷徹にして残忍。
シャルロッテ(ジェニファー・ウールリッチ):かつて無声映画の女優(フリッツ・ラングの映画に出演していたという設定)だったが、ルイーズに吸血鬼にされた事で、夫と娘を捨て闇の世界へ。哀しみを心に秘めつつ、知的で冷静沈着、寡黙なニヒリストを決め込む。文学を愛する。
ノラ(アンナ・フィッシャー):'90年代のラブ・パレードの最中にルイーズに咬まれ、吸血鬼に。3人の中で一番若く、ヴァンパイアであることを謳歌している。やりたい放題のキャピキャピギャル。
まず何よりも、ドイツ語でしゃべる吸血鬼がクールだ。そしてベルリンの夜景が、ヴァンパイアに実に良く似合う!ハリウッド製のヴァンパイア映画とは明らかに違う「ルック」が、この映画にはあるのである。人間社会の闇の中で、人知れず生き続ける都市伝説のような女ヴァンパイアたちの姿は非常に魅力的だ。そして、4者4様のキャラクターの違いを描いているところが面白い。
監督のデニス・ガンゼルは『THE WAVE ウェイヴ』で本国ドイツで大ヒットを飛ばした俊英。実は本作『ブラッディ・パーティ』は構想14年の、監督の悲願とも言える作品。実現に時間がかかったのはドイツの映画界の事情で、無名の新人監督のアイディアに出資する会社が中々なかったため。しかし『THE WAVE ウェイヴ』の大成功でようやく映画化にこぎつけそうになった時、皮肉な事が起こる。当初、人間とヴァンパイアのラブストーリーを考えていたのが、例の『トワイライト』に先を越されてしまったため、ストーリーに変更を加え、女ヴァンパイアの群像劇になったという。
この映画を観ていて、もったいないと感じるのは、構想に時間をかけてきたため、細かい設定などが練り込まれている一方、100分の尺の中では消化しきれていない、という事。男のヴァンパイアは滅亡してしまった、という設定は面白いのだが、短い説明でいまひとつ説得力が足りない感じがしたり、特に女性ヴァンパイアたちには、彼女たちが背負ってきたそれぞれの歴史があるのだが、それが描き足りず、キャラクターとしてもう一歩掘り下げきれていない感じがする。というか「もっと知りたい」と思ってしまうのだ。最初からシリーズ化を前提で製作できるハリウッドと、ドイツ映画では事情が違うので、言っても詮無いことなのだが、できればシリーズとしてじっくり観たかった、と思わせる作品だ。それでも、シャルロッテが「年老いた娘」と、悲しみの再会・別離を果たすシーンは、短いながらも吸血鬼となった人間の悲哀を描いていて、エンタテイメント映画ながら良くできていると思った。
『THE WAVE ウェイヴ』でも感じたが、デニス・ガンゼル監督は、色彩や光の捉え方など、独特の映像センスを持っていて、非常に筆者好みの画づくりをする監督だ。今時の監督なのでCGやデジタル処理はもちろん使うが、必要最小限度で、基本的には「撮影」で勝負しようとしている心意気が感じられて良い。ヴァンパイア映画なので、たくさん犠牲者は出るし、血みどろのシーンもある。しかし良く見ていると、直接的な暴力描写は極力抑えられていて、「殺戮の後」としての描写が多いことに気づかされる。やたらと凄惨なグロ描写をしないところにも品位を感じる。
'90年代半ば、ヨーロッパ映画界に若い才能が次々と開花した刻があった。『マトリックス』がVFX革命を起こす前夜、まだCGとデジタル技術に毒されていなかった若手映画作家たちが、奇想天外なセンスとアイディアを駆使し、個性的なSF映画を生み出して行ったその新潮流は、「ユーロ・ニュー・オーダーズ」と呼ばれた。奇抜なカメラワークや、反則ギリギリの現像技術、考えられるあらゆるアナログ的手法を投入したエネルギッシュな映画たちが出てきた。新しい世代の登場を高らかに謳ったその映画群は、残念ながら、かりそめの潮流としてやがて消えていってしまった。
しかし、デニス・ガンゼル監督のセンスは、かつてのユーロ・ニュー・オーダーズを思い出させる何かがある。CGやデジタル技術も使うが、デジタルに依存しきった映像ではない。ベルリンの夜景も、蛍光灯下で撮影されたフィルムのような、青みがかった荒れた感じがあって、実にいいのだ。
もちろん、カーチェイスにガンファイトに、ヴァンパイア・バトルとアクションもGOOD!
主役のレナを演じるのは、『パフューム ある人殺しの物語』で、主人公が最初に手にかけ、心に焼きつく事になる赤毛の女性を演じたカロリーネ・ヘルフルト。香水「ジル・サンダー・イヴ」のイメージ・ガールとしても知られる。
ルイーズを演じるニーナ・ホスは、監督が14年前に最初の脚本を書いた時、ヒロインとして考えていた女優。時間が経ってしまったため主役を演じることはできなくなったが、この映画には熱意を持ち続けていたので、女ヴァンパイアのリーダー的存在を演じる事になった。
そして、『THE WAVE ウェイヴ』組からの出演は、前作でヒロインを演じたジェニファー・ウールリッチ。『THE WAVE』の時は、目が大きくギョロっとした印象だったが、本作のシャルロッテ役は素晴らしい。映画のスチールでサブマシンガンを両手に構えた寝巻き姿の美女をご記憶の方もいると思うが、あれは主人公ではなく、ジェニファー嬢なのだ。あのクールな出で立ちには筆者もマイッテしまった!
もう一人『THE WAVE』からの出演は、若き刑事トムを演じるマックス・リーメルト。ガンゼル監督の全作品に出演している、お気に入りの俳優らしい。当初予定されていた、「ヴァンパイアとの恋」が作品の中にどのような形で残されているのか、も見どころだ。
かつて'90年代に、アメリカでもヴァンパイア映画の新潮流が見受けられた瞬間があり、大いに期待したのだが、あえなく消えていってしまい、ハリウッドがCGにすっかり汚染されてしまってからは、もうゲームの世界のキャラクターの如きヴァンパイアしか見られなくなってしまった。しかしここ数年の間に、『僕のエリ 200歳の少女』といい本作といい、ヴァンパイア映画の新潮流は再びヨーロッパ世界へと回帰していったようだ。経済危機に喘ぐ欧州の暗雲を打破するキーワードは「ヴァンパイア」なりしか?
本作は公開時に、男性による映画評は好意的なものが多かった反面、女性の映画評論家やライターたちからは大変なこき下ろしようで酷評されまくるという、評価が真っ二つに分かれた映画だったのだが、今こそ男性陣を代表してはっきり言わせて頂く。
ハーレクインロマンスにキバを生やしたかの如きヌルい映画には、我々はキョーミはない。男の子が観たいガールズ・ヴァンパイア・ムービーは『ブラッディ・パーティ』なのだ!