実際に起きた事件を元にしたコンセプトアルバムである。
その点で出来は非常に良く、架空の映画音楽としてさえ通用する。
まず、冒頭の弾けるようなヒット音から、急にピアノとストリングスを用いた哀愁の漂う曲調に移る様が印象的であり、魅力的でもある。ここでストリングスを効果的に使っているが、決して全編を通してウィズ・ストリングスという形式に執着しているわけではない。ときにバップ調も交え、こういった臨機応変さが、ドラマチックな映画のように、一連の物語を形作っている。
10曲目あたりで曲調が変わり、起承転結における「転」が演奏される。そして、最後の曲では、またストリングスを効果的に用い、じわじわとクライマックスに向けて緊張感を高める。バンドの総動員によって最高潮に達した音楽は、前半のモチーフを繰り返し、ひっそりとした「結」を奏でる。このように交響曲に近い展開を見せる後半は、既にジャズという枠を超えてさえいる。その点で一般的なジャズ・アルバムを求める人にとっては満足できない出来なのかもしれない。
しかし、もし王道のジャズとして聴く者を満足させてしまったら、ベルデンの目的は達成されないことになるのではないか。ボーナス・トラックが詰め込まれても楽しめる古典的名盤ではなく、一曲の長短も許されない物語性を持ったアルバムである点に、ジャズの将来像が垣間見えはしないだろうか。
いわゆる名盤が売れ筋の上位を占めているジャズ界において、果敢に古典に立ち向かったベルデンの「ブラック・ダリア」は、新たな古典となる可能性を秘めた「未来の名盤」ではないかという期待すら抱かせる異色の傑作なのである。