<インテリジェンス>という視点に立って、2001年の9・11同時多発テロから、2011年の3・11東日本大震災/原発事故までの10年間を検証したノンフィクション。
ちなみに<インテリジェンス>とは、単なる極秘情報ではなく《国家指導者の最終決断の拠り所となる選り抜かれた情報》(28ページ)とされる。
ついでにいえば、タイトルの<ブラック・スワン>とは、《ありえない事態が現実となることの隠喩》(本書の扉)だ。
<米本土攻撃>と<福島原発>のメルトダウンという、2つの<ブラック・スワン>降臨のあいだに――(1)どのようなインテリジェンスがおこなわれ、(2)それがいかなる結果をもたらし、(3)日米首脳の決断にはどんな差が出たか、といったことが中心に記されている。
いくつか、目についた記述をメモしておく。
・同時多発テロの1〜2年前、ビンラディン(すでに自爆テロを指揮していた)を国内に抱え込んでいたスーダンは、アメリカに身柄引き渡しを提案したが、当時のクリントン大統領はそれを拒否している(73ページ)。
・米史上はじめて、本土攻撃という<ブラック・スワン>の降臨を受けたブッシュ大統領は、アフガン開戦に突き進む。すると、《インテリジェンス機関は、政治指導部の決断に迎合した情報を報告してくる》(135ページ)ようになる。
・「イラクが大量破壊兵器を隠している」という米国製インテリジェンスは間違っていたことが判明、小泉首相が国会で「ブッシュ支持」を突き上げられていたとき、「イラクが核開発を進めていた証拠がある」という謎のイラク人が登場。官邸は機密費で1か月間、高級ホテル住まいをさせて情報を収集したが、まったくの<がせネタ>だったという(145〜7ページ)。
・そして2011年、今度は福島に<ブラック・スワン>が舞い降りた。《国家の命運を左右する局面での決断に持てる全てを注いで、淡々と結果責任を担ってみせる》(232ページ)べきであった菅首相は、なんとヘリコプターに乗って福島原発に降臨、《官邸の「インテリジェンス・サイクル」は機能不全に陥って》(233ページ)しまった。
・他方、10年のインテリジェンスの末、やっとビンラディンがパキスタンに潜伏していることを突き止めた統合作戦司令部はオバマ大統領に「襲撃」の決断を迫る。パキスタン政府には内密に作戦を実行することに逡巡しながらも、《作戦命令書に遂に署名》すると、《決行までの三日間、オバマはポーカーフェイスを装い続けた。その見事な演技はシェークスピア劇のローレンス・オリヴィエも舌を巻くほど》(16ページ)だった。
このほか、北朝鮮の核開発や中国の海軍拡充、そうしたなかでの日米同盟の弱体化などに触れた内容は(すでに報道から知っていることも少なくはないが)、読む者の心胆を寒からしめる。
日本と諸外国の<危機管理>のあまりの落差にゾッとしながらも、私は一気に読了してしまった。