ホーキングが場の量子論と一般相対性理論を結びつけて出した「ブラックホールは放射を出しながらエネルギーを失って蒸発する」という衝撃的な結論が世に問われてからもう30年以上の月日がたつわけですが、これまで正直ホーキング放射というものを、いずれ統一されるべき量子力学と一般相対性理論を巧みに組み合わせて、今日の時点で計算できることを計算してみせたくらいのものとしか認識していませんでした。しかしその認識は間違っていたのですね。ホーキング放射がブラックホールから出てきてしまうという量子力学にもとづく計算結果は、一般相対性理論の基礎にある原理たる等価原理と量子力学の不可避の帰結たる不確定性原理、これら現代物理学の根底を支えている2つの根本原理が原理的に矛盾しているというあまりに重大な事実を白日のもとにさらすものだったのですね!
等価原理によればブラックホールに自由落下する運動をしている観測者には重力の影響は存在しないのだから何事もなくブラックホールの事象の地平面を越えていくはずだが(落下する観測者にとっては地平面自体がない)、量子力学によればブラックホールの地平面はホーキング放射でおおわれているはず。ブラックホールに落ちていく観測者には何もないはずの地平面が、外部の観測者から見ると放射で満ちている。ブラックホールに落ちていく観測者は放射を浴びるのか?浴びるとしたらアインシュタインの等価原理が破れていることになるし、浴びなければ量子力学の真空理解が間違っていることになる。もちろんどちらの原理も間違っているはずはないのである!・・・ということなのだと理解しました。こんな度肝を抜くようなすごい話だったなんてホーキングがらみでこれまで読んだ本書以外の本では全然わかりませんでしたね。
ホーキング自身はこの2つの大原理間の矛盾を適切に解決したというわけではなかったようですが、しかしこれほどの根本的な重大問題を提起しえたという一点で、サスキンドも認める通り、やはりホーキングは科学史上に燦然と輝く最も偉大な理論物理学者の一人なのでしょう。