オーストラリア・シドニー在住で二児の母親にして新進SF・ファンタジー作家ラナガンの世界幻想文学大賞受賞の第二短編集が本邦初紹介されました。本書のタイトルは著者が各短編から受けるトータル的なイメージに色づけして名づけられています。ちなみに処女作は「ホワイトタイム」で2作目が本書、続く3作目は「レッドスパイクス」となっています。著者の作風は、本シリーズのテーマ‘奇想コレクション’にまさしくドンピシャで、どれを取っても風変わりで非現実感に満ちた真にけったいな物語になっています。SFを読んだ方にはお馴染みですが、導入部は不思議でとらえ難く訳がわからず頭をひねりながらも黙々と読み進む内に、次第に著者の語り口に説得されて行き、物語の展開に快感を感じる頃に穏やかで昂揚感に満ちあふれた結末がご褒美に訪れます。珠玉の全10編から5編をご紹介します。
『沈んでいく姉さんを送る歌』:族長から命じられ夫殺しの罪でタール池に生きたまま沈められる姉さん。家族で歌いながら最後まで見送る異常な儀式の中で、忍び泣きながら互いの心が通い合って絆が深まります。『赤鼻の日』:ピエロを目の敵にして人狩りをする男が、味方が敵に変わっても心を揺らさず冷徹に仕留める不可思議な世界のハードボイルドです。『大勢の家』:村を支配する〈詩人〉の精神的庇護の基に集落で暮らして来た十二歳の少年が外の世界に脱出します。自主性を獲得した少年の勇気と成長が感動的です。『俗世の働き手』:悪臭を放つ醜悪で異形の天使が登場し、少年に奇跡を施す奇妙なファンタジーです。『ヨウリンイン』:町を襲う凶悪な怪物に苦しむ異世界を舞台に、ひとりで勇敢に怪物に立ち向かう少女が味わう苦い失恋の物語です。ハンサムでも甘やかされた金持ちの坊ちゃんの物質主義の愚かしさが、精神の貧しさを露呈します。
異質な世界の中に人間の本性を描き切る著者の今後の活躍に大いに期待致します。