ブラウン神父シリーズ中でも粒揃いの短編が揃ったお勧めの作品。ブラウン神父は職業柄"神"の奇蹟は信じるが、人が起こす奇跡等信じない。そんなアイロニーが題名に込められている。
「犬のお告げ」はそれを最も良く表した作品。密室殺人が起きた瞬間に、それを告げるかのように吠えた犬の話を奇跡譚のように話す語り手に、「そんな奇跡は起こる筈がない」と言って、語り手に詳細話をさせて、安楽椅子探偵的に謎を解くというもの。定評ある作品で、多くのアンソロジーに選ばれている。しかし、私は本作に出てくる"あづまや"の原語が知りたいのである。この原語の意味で作品の評価も大分違うと思うのだが...。
「ムーン・クレサントの奇跡」は奇抜な密室トリックで楽しませてくれる。後に多くの模倣を産んだ。クリスティの「メソポタミアの殺人」もこの変形だろう。「翼ある剣」は雪の山荘ものなのだが、全篇を覆う異様なムードと死体の意外な隠し場所で印象に残る作品。他の作品も粒揃いで、チェスタトンのミステリ的アイデア・機知が縦横に溢れた珠玉の傑作短編集。