とにかく聖人ブッダの生涯とその教えについて浅く薄く軽く簡潔なタッチでザッと触れている。
漫画自体のクオリティは決して高くはない。
そして読むのが遅い私でも一時間もあれば読破できるボリューム。
しかしながら私のような不心得者がその輪郭を眺め、表層を掬い取るには全くもって充分な内容であった。
然るに本書はその主眼である漫画を媒体にした導入書としての機能は充分に満たしていると思う。
漫画娯楽としての機能を求めるならば手塚治虫を読めばよいし、
もっとどっぷりがっつりと浸かりたい方は活字に触れればよろしい。
とにかく手っ取り早くその概要を掴みたい方にとって本書は非常に便利かつ有用である。
ブッダはキリストのように行く先々で超常的な奇跡現象を起こしながら人々を従えていく訳ではない。
ただ、各々の抱える苦悩に対して自らが修練の果てに悟った原理原則に照らし合わせて教え諭し、
それぞれの認識のブレイクスルーに導いていく。
その当時インドにて社会政体と深く結びついていたバラモン教の価値観は死後の幸福を得るために
現世での犠牲を説くことにあった。それに対し、ブッダは日々の生活を通した修身によって
己の精神を高めて涅槃の境地に達すれば、移ろい易い現世の出来事に心惑わされず、
真の心の平穏を得ることができると説いた。
涅槃の境地、つまり現世極楽の追求を説いたブッダの教えは当時のインドにおいては
ある種の革命的な響きを持っていたであろうことが想像される。
日本において仏教の様々な概念は当初サンスクリット語で説かれていたものを中国語に翻訳し、
表意文字である漢字を充てたものだからある種の二重翻訳的なニュアンスが感じられて
パッと理解しづらい側面があるかもしれない。しかしながらブッダの思想は「無明」の概念を始め、
単に「東洋的」な死生観の枠には留まらぬ独特の哲学的な考察が感じられて非常に興味深い。