対位法についての書物は少なからず存在します。本書の著者のひとり、Marcel Bitschの『
対位法』は音楽之友社から翻訳が出ており、また本書の監修者である池内友次郎の『
二声対位法』は現在でも入手しやすいと思います。
ただし、上記の2書はいずれも素晴らしいものですが、基礎的な技法の記述のみに徹し余計なことが一切書かれていないため、シンプルすぎて何のために何を説明しているのかが見えにくくなっています。
本書は、そういった対位法本の《わかりにくさ》を補うためにも有用です。対位法についての予備知識的な記述のあと、中世から現代にいたるまでの「フーガ」というものの歴史を追うことによって、対位法技巧がいかに実際の作品の中に現れているかを明らかにしています。
紙面の都合からか掲載されている譜例は少ないですが、その割に数多くの楽曲をあげて解説しているため、本気で楽譜を全部集めてそれらの楽曲にあたろうとするとかなり面倒です。しかし、それらを乗り越えれば、対位法などの音楽理論が決して誰かひとりの思いつきで湧いて出てきたのではなく、多くの先人の感性が長い時間をかけて抽象され、集大成されてきたものだということが理解できるでしょう。