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フロイトのような天才には幸福な晩年こそふさわしいはずだったが、不幸なことに彼の最後の年月はヒトラーの登場と重なってしまった。そのせいもあるのか、彼の世界観は本当に暗い。ロマン・ローランの「大洋感情」を否定し、人間にはエロス(生の本能)の他にタナトス(死の本能)もある、と主張した。つまり、人間の攻撃欲、破壊欲は本能に根ざしたものだ、と。
フロイトのニヒリズムは徹底している。私はニーチェ以上ではないかと思う。ニーチェは規制社会の価値観を崩壊させたが、「善悪」に対して「良い悪い」を提起したり「運命愛」を語るなど、彼流ではあるが、世界の価値を改めて創造し直そうというようなところがある。でもフロイトにはこれが全くない。世界はただあるようにあり人間にはどうすることもできない、と考えていたように見える。そして私には、こんな絶望的な世界観を持っている男にどうしてあれだけ膨大な仕事ができたのか、不思議でならない。
「フィロソフィー」というのは、知への愛、という意味なのだそうだが、フロイトはすべての希望に背を向けて、ただ「知への愛」だけを支えにして生きていくことができた、ということなのだろうか? ーースピノザの声が聞こえてくるような気がする。「知こそが徳であり、幸福であり、善である」
読んだころに決意めいたものを感じたことを忘れられません。
夢判断の訳者が折にふれて書いているとおり、この本にまして恰好のフロイト入門書はないはずです。
やはり文化に想いを寄せる者ならば、誰に限らずとも読んでもらいたく思います。
「文化への不満」を、「レオナルド」を、そしてなにより「無常ということ」を。
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