当時のヨーロッパの歴史的状況とフロイトの個人史を併行して論じる試みは、すでにピーター・ゲイの評伝で行われている。この本も似た方法で、当時の状況下でフロイトがいかに生き、愛し、仕事をしたかを論じている。しかし、幼少年期から青年期のフロイトが、自身の人種問題をどのように感じ、それが後の生き方にどう影響したかについての見解は、ゲイと本書では別の立場をとっているように思える。
あくまで資料から逸脱しないよう禁欲的に記述されたゲイの評伝は、それはそれで当然価値をもつものである。
一方でクレマンさん!あくまであなたの立ち位置から描かれた「あなたにとってのフロイト教授」の、なんと魅力的なことか!
クレマンさん、あなたがおっしゃる通り、勤勉によってシュテートルからやっと抜け出た父親世代と違い、フロイト青年は晴れ晴れとした解放感をもち、自由な精神で宗教や習慣から決別したのかもしれません。微笑ましいまでの、野心と勇気とほんのちょっとの勇み足。
でも、あなたの描いた教授のイメージ、とりわけ最後の記述は、私にはやはりあなたの先生にこそ似つかわしいように思えます。
本書の巻末には、十川幸司氏による簡潔で読み応えのある解説がある。これだけでも読む価値がある一冊。