スタンリー・キューブリックというと、巨匠という名がふさわしいだろう。
アポロの月面着陸は、実はキューブリックが監督撮影した映像という説も、
まことしやかにささやかれるくらい、いろんな意味で映像の魔術師であろう。
また、キューブリックの映画は何度観ても発見があり、
何度も観るに耐えうる作品でもある。
それくらい奥の深い作品の作り込みをしている。
そのキューブリックが撮影した戦争映画。それもベトナム戦争を舞台としている。
ベトナム戦争といえば「地獄の黙示録」「プラトーン」などが筆頭であろうが、
基本的にわたしは戦争映画が嫌いなので、この作品も観ていなかった。
しかし今年8月は、終戦65年ということで、
さまざまなドキュメンタリーやドラマがテレビで放映され、
戦争について考えさせられることが多く、この作品も観ようと思った。
作品という意味では、キューブリック作品というには、わたしの中では得点が低い。
しかし、前半での新兵訓練所で「殺人マシーン」へと鍛えられて狂気さ。
後半での戦場において、淡々と流れる時間の中、狂気へと変わっていく人間。
この空気に醸し出し方は、キューブリックのならではの、
長廻しカメラワークによる空気感だろう。
そこには、いままでの戦争映画のように、勧善懲悪も、英雄的な人物も出てこない。
ただ戦争という現実を、ありのままに表現しようとするのだ。
たまたまNHKでカラー処理された、戦争ドキュメンタリーの映像を観ていたら、
なにかキューブリックの映画に近いものを感じた。
カラーになった映像が、時代を超えて身近な現実感を与えたのだ。
キューブリックの描くこの戦争映画は、たとえば主役に同化して、
さまざまな苦境から乗り越えて、生き延びてよかったという安堵感がない。
どちらかというと、観ている自分はすでに銃に撃たれてしまい、
あの世から映像を観ているような気分にさせられるのだ。
なるほど、こう書いてみるとこの作品の重みがわかってきた。