この映画は、ラング監督の「M」に続く2作目のトーキーです。
独時代最後の作品となりました。
当時、独はナチ政権、この映画を独国内で上映禁止に、ラング監督はその後すぐに米国に亡命しました。
内容よりも「いわくつき」の作品として、この映画は有名です。
ヒトラーやナチの隠喩ともとれるような描写もあり、そういう文脈で理解されることが多いようです。
プリントについては極めて良好です。
30年代のモノクロ映像ですが、驚くほどクリアー。
オリジナルのネガが存在するようですが損傷が激しいため、程度の良いポジを集め、欠落部分を埋めてオリジナルに限りなく近い形にしたとのことです。
オリジナルが122分で、このプリントは121分です。
特典映像も非常に興味深かったです。
存在する独・仏・米の3バージョンを並べながら、詳細に違いを説明しています。
付録の冊子も大変充実しており、背景も含めて随分理解の助けになりました。
内容的には、残念ながら「ドクトル・マブゼ」には及ばないと思います。
刑事もののような娯楽的側面が強く感じられました。
前作のような邪悪で狂気あふれるテイストが全体的に減退している気がします。
それはマブゼが話の中心にいつつも、一貫して存在が曖昧だからではないでしょうか。
ですが、マブゼ再演のロッゲとバウム教授演じるベレギが出てくると雰囲気が一変します。
ふたりの演技が共鳴しあって、えもいわれぬ狂気が生まれているのです。
やっぱりすごいなって思います。
話も十分面白い作品ですし、ハッとしたところであの狂気が演出されているわけですから。
この作品、ラング監督の超A級作品に比べれば凄みが足りないことは否めません。
ラング監督を始めてみるなら他の超A級から、この作品を観るなら「ドクトル・マブゼ」を観てからにしたほうがいいと思います。
ラング・ファンはやっぱり必見だと思います。