「M」、「恐怖省」でラング監督に魅入られ、「ニューベルンゲン」で流石に古さに付いて行けず、暫く本作を敬遠していましたが、観て良かったと思います。
紀伊国屋の同シリーズ「裁かるるジャンヌ」の霊妙なリマスター画像程では無いのですが、本作の画面も丹念に修復されており、新旧を超えて通常とは異なる映画文法で撮られた作品として観る事が出来ます。
画面に映る物全てがあまりにも現代と変わっているので、センターに前明かりのスポットが当っている画面共々まるで覗き鏡で異世界を観させられている様な幻惑に陥ります。
サイレント映画独特な演出と大仰な演技に最初は戸惑いましたが、慣れると権謀術数と奇想に溢れた連続活劇としての面白さに夢中になれます。作中頻繁に出てくる催眠術や動物電気は古さを超えて超能力やスタンドの様にフィクション中のギミックとして楽しめます。
タイトルロールを演じるルドルフ・クライン=ロッゲの堂々とした、押し出しの強い演技は最近のコミック感覚を意識した大仰な演技とは別のカリスマ性に溢れて居り、10近くの人物に成りきる変装と、夢破れた後の乱心演技は一見の価値が有ります。
反面、当時最先端のメイクとドレスに身を包んだ女優陣は鼻に串を刺したり首に輪をはめた部族の女性の如く珍奇に見え、女性に対する美的感覚の方が時代と文化に左右される事が判ります。
私はドイツ国防軍のヘルメットを観ると反射的に悪役と観てしまう条件付けが出来ているので、彼らが善玉として犯罪者集団マブセ一味と市街戦を繰り広げる終盤のスペクタクルには驚きました。
いまさらですがマブゼ博士は手塚治虫さんの悪漢造形(ヴァンパイヤのロック等)に多大な影響を与えた事も確認出来ます。
ルパンから始まって、ファントマ、ハニバル・レクター博士等超人的な悪役がお好きな方には大いにお薦めです。