もしあなたが、語学に堪能でない一般の日本人だとして、慣習が違う遠い異国の地に赴いた際、現地で大きなトラブルに巻き込まれたとしたら、大層不安で緊張感が高まる事だろう。愛妻と学会でパリを訪れたアメリカ人であるこの映画の主人公は、到着早々ホテルでシャワーを浴びている隙に、妻が失踪してしまうという状況に陥る。早速、ホテル、警察、大使館に掛け合うものの、そのあまりの反応の鈍さに、主人公は怒りと共に異国での不安と孤独と猜疑心と焦燥感に満ちた“恐怖のイメージ”に苛まれる。
サスペンススリラーとしての「フランティック」の面白さは、正に全編に漂う、主人公が陥ったその緊張感と得体の知れない不気味さと閉塞感を観る者が共有する部分にあると思う。だから、妻の失踪の“理由”が明らかになってからの展開は、ミシェル役のエマニュエル・セイナーの魅力を以ってしても、通俗サスペンスの域に収斂されてしまうのが残念。
ロマン・ポランスキー&ハリソン・フォードの顔合わせにも拘わらず、世間ではあまり知られていないこの作品、インディ・ジョーンズでもハン・ソロでもない等身大の一般人としての、フォードのうろたえぶりと懸命さとコミカルさも見ものな(彼が、セイナーの窮地を救うエピソードは珍妙で笑える)、サスペンス映画の快作と言っておきたい。