本書は、そんな新旧のトリュフォー・ファンにぜひおすすめしたい敷居の低い1冊だ。著者は生前のトリュフォーと長年にわたる親交があり、また『トリュフォー、ある映画的人生』 『友よ映画よ』などで定評のある映画批評家である。言うなれば最適任者によって書かれた本書は、処女作『ある訪問』から遺作『日曜日が待ち遠しい』までの短編3本を含む全25作品を余すところなくカバーし、懇切な作品解説やスタッフ・キャストのインタビュー、さらには豊富な作品図版などを交えて、トリュフォーの全体像を見事に浮かび上がらせている。あのスティーヴン・スピルバーグが自作『未知との遭遇』にトリュフォーをキャストとして起用したくだりの描写などがとりわけ興味深い。一瞬、650ページを越えるボリュームには気圧されるものの、その語り口は総じて平明であり、またシネフィル的著作によく見られる排他性とも無縁であることから、トリュフォーに関心のある読者であれば一気に通読することも決して苦になるまい。
ちなみに本書の冒頭には、「感化院上がりの不良少年から『ヌーヴェル・ヴァーグ』の中心的存在へと登りつめながら、しかし生涯シネフィル的な少年らしさを失うことのなかった」とトリュフォーの生涯をごく手短に振り返った一文が掲載されている。死後まもない時期に書かれた追悼と思しきこの文章は、著者のトリュフォーに対する強い思い入れの原点をも示しているのではないだろうか。(暮沢剛巳)
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