そもそも「入門」と銘打つからには、全体の構成が初心者にもわかりやすく書いていないといけません。
そのためには、まず読者に大まかな「流れ」をつかんでもらった上で、細かい兵器の性能や編成のことを書く必要があります。
しかるに、この本ではそういった「流れ」を書かずに、いきなり個々の兵器のスペックと、知らなくてもいいような高級統帥部の官僚機構と、細かい師団編成の説明を読まされることになるのです。これでは入門者はフランス軍のことがまるでわからないでしょう。
そして、「流れ」的に最も重要な戦史部分がまるでだめです。
1940年戦役では、フランス軍は基本的に受動側です。そのため、フランス軍のことだけを書いていても話の全体は見えてきません。どうしても、主動側であるドイツ軍からの視点、特に「シュリーフェン・プラン」と「マンシュタイン・プラン」の比較は絶対不可欠です。しかし、この本ではそれが欠けています。
その他、この本に書いてあるべきなのに欠落している事項を列記します。
・フランス軍の編成に大きな影響を及ぼした、戦間期フランス政治の混迷
・重要な指揮官の名前(コラーもアンツィジェールも出てこない1940年の戦闘序列とは何でしょうか?)
・ベストセラー兵器、ブラント81mm迫撃砲
・人名の原語表記(これがないとネットで検索もできません)
・ド・ゴールの戦車戦術理論
・有名な戦間期フランスの出生率低下の話
・ヨーロッパ言語の軍事用語がほとんどフランス語由来であること
著者はいろいろ言い訳をしていますが、「フランス1940」のヒストリカルノートに山ほど英語参考文献が載っていて、一部はネットででも読めるのに、読んでいないのはなぜですか?
結論。入門者はこの本を買わないでください。高級統帥組織論マニア(もしもそんな人がいるのならば)は買ってもいいでしょう。