岩波文庫『フランス・ルネサンスの人々』(1992年)の底本となった筑摩書房の『著作集』(1971年)にさかのぼること,さらに20年あまり,1950年に初版の出たこの岩波新書は,収録作品が共通しているとはいえ,文体や記述の点で,まったく異なった趣を持つ名著である。
著者は,ルネサンスの「歓喜」ではなく,「暗澹たる宗教戦争」における自由検討の精神の「苦闘」について,9人の人物の小伝を通じて描き出し,その「異端」ぶりと「懐疑」の精神こそが人間を救うことを謙虚な迫力をもって主張する。
上記文庫には,さらに3つの小伝が加わっているが,他方,この新書版には,文庫に収録されなかった「略年表」と「索引」がついている。
現在,文庫も新書も品切重版未定とのことだが,2002年に重版された文庫の方が入手しやすいかも知れない。しかし,清水徹の「解題」と大江健三郎の「解説」を文庫で読めば,必ずや新書版(私の手元にあるのは1989年発行の第4刷)を読みたくなるはずです。