小説の魅力はプロットにだけあるのではない。小説を読む楽しみは手に汗握って頁を繰ることばかりではない。ル・クレジオの『黄金探索者』を読み、改めて気付かされた。(まだ『フライデー』の方は読んでいないのですが、フライングして書かずにはいられませんでした。)
『黄金探索者』の魅力は、何よりもひとつひとつの場面の喚起力にある。詩的で緻密な文章を噛みしめ、ただ海の香を吸い込み波のうねりに身をまかせる。夜の静寂に耳をすませ、清澄な星空に息を飲む。じっくり読むほどに魅惑的な、濃密な時空間が広がる。
そして、そうした瑞々しい描写に映し出される、主人公の失われゆくものへの深い愛惜の念(それが彼を探索に駆り立てずにはおかない)が、終始胸を打つ。
決して派手ではないが、豊饒な読書体験を約束する小説である。