著者の解説は、フロイト、ユングといった概念的な深層心理学より、
『科学的』な実験心理学のアプローチに比重を置いたことが趣意のようだ。
対象ではなく研究手法による「現象」「実験」「観察」「理論」「技法」という
分類と説明がされ、整理されていて理解しやすい。
他の入門書よりスッキリわかるという感覚が持てる。
ただし、著者は何度も『科学的』と復唱するが、
いずれの概念も、定義から演繹的に結論づけられたものではなく、
帰納法的・経験則的に導かれたものであることは、
分類からも、対象が心ということからも明らかだ。
であれば、各手法・説明に、100%確実な再現性は無いと言える。
カール・ポパーの科学哲学の様に原理的に
「帰納法は無意味。実験による実証は不可能で、反証のみ可能」とまでは
言わないとしても、再現性・再起性を導く 確率の明示や
統計による論拠、条件による場合分けの提示は、必要である。
確率等の明示がなければ、各手法・各説明は、著者の好まないフロイトらの
科学的でないメタファー(比喩)やアナロジー(類比)めいたものと、同義でしかない。
再現性が100%でないことは、孕む限界を示すが、有用性が無い事までを示しはしない。
初学者へ分析等のツールを紹介するときに、
一流の学者ほど(法律学者の川島武宜やノーベル経済学賞のクルーグマン等)
『その学問領域の限界』を語るものだ。
万能な学問はないのであって、「限界」は使い方を誤らないための、
「射程」でもあるからだ。
心理学がそうだとまでは思わないが、
この著作自体は再現確率や射程について沈黙しており、その点で、
ある種、心理学の計量化モデルである『行動経済学』の概説書にかなわない。
よって『科学的』と言うには些か『不実』を感じる。
説明はキレがあり美しいだけに、非常に惜しい。