LPの頃ですが、フォーレ「レクイエム」の定番はこのクリュイタンス盤でした。多くのアルバムがその後発売されましたが、その評価は私の中では今も不動です。
1962年2月の収録ですから、半世紀がたとうとしています。録音の解像度は今の水準からみると劣るでしょう。マスター・テープのひずみも若干聞きとれます。エリザベト・ブラッスール合唱団の歌唱も音程の不安定さが感じられ、発声も含め技術的な観点からみればもっと優れた演奏はあります。
それでもリスナーの心をつかむ演奏として、この名指揮者クリュイタンスの敬虔な演奏は唯一無二の存在だと言えます。厳粛な雰囲気が全曲に漂っているのを受け手がしっかりと認識できるからでしょう。パリ音楽院管弦楽団も統制がとれており、抑制のかかる部分とダイナミックな部分のどちらもしっかりとした演奏を届けてくれます。
「イン・パラディスム(楽園にて)」での天使の歌声を表現する歌唱も、イメージ通りの静謐で厳かな演奏からスタートし、包み込むような慈愛に満ちた感覚で表現されています。
ソリストの素晴らしさは多くの方の評価どおりです。フィッシャー=ディースカウは、収録時36歳でした。やわらかく諭すような声でありながら、「リベラ・メ(われを許し給え)」での永遠の死から解放を希求する歌唱から受ける決然とした表現は卓越しており、この歌唱に勝るバリトン・ソロは現在でもないと思っています。
ヴィクトリア・デ・ロス・アンへレスが歌う「ピエ・イエズ(ああ、イエスよ)」は、とても丁寧で透明感を持った歌唱で、清楚に歌われていました。
父の死を乗り越え母の死の翌年、フォーレはこのレクイエムを世に残しました。他の作曲家のレクイエムよりも劇的な個所は少ないですが、生きている者から見た死者の魂を慰める雰囲気がたまらない名曲です。