シンガーソングライターの中村まりと、4人組のストリングス・カルテット「Lonesome Strings」。どちらもカントリー・フォーク
等のルーツ・ミュージックを活動の軸とするミュージシャン。以前から共同でライヴ活動は行なっていた彼らだが、この度共
同名義で初の作品を発表したのでご紹介したい。
以前からCD制作の企画はあったものの、機が熟すまでいう結論に至り一旦保留とされた本作、着想まで実に5年を要した
という。内容は中村、Lonesome Stringsによる書き下ろし作品とカヴァー曲を混合したもので、カヴァーに至っては、70年代
のソングライターの作品に始まり、古くはAlbert Aylerや1920年代のコンピレーション内の出典不明のものまで、実に約100
年間を自在に往来。制作中はセッションが予想以上に白熱した様で、結果として全70分弱の大ボリューム作となった。
ルーツ・ミュージックというと、ゆったり癒やし系なイメージを勝手に抱いていたが、本作には楽器演奏を楽しむ緊張感と醍醐
味がたっぷり詰まっており、自らのルーツ・ミュージックに対する認識を大分改めることになった。
高速に跳ね回るバンジョー、ごりごり豊かな重低音を醸し出すコントラバス、スライド音が堪らなく美しいスティール・ペダル
等間髪入れず耳に飛び込む名手達の練られたテクニックを是非楽しんで頂きたい。
卓越した演奏、中村の中性的なハスキーボイスを鮮明に捉えた録音も大変に優秀で、音の「香り」までが伝わってくる。
さらに特筆すべきはカヴァー群に加え収録されたオリジナルの素晴らしさ。1世紀もの間歌い継がれる名曲群の合間にさり気
なく挟み込まれる書き下ろし曲が、なんら違和感なく感じられ全体の質を落とさないというのは、地味に凄いことだと思う。
作品をさらに深く楽しむのに役立つのが、Lonesome Stringsのメンバー桜井芳樹による楽曲解説シート。聴き手に馴染みの
薄い古い楽曲の出典元・歌詞解説に加え、各楽曲が録られた際にバンド内に起こった様々なドラマまでを克明に記録。
5日間のレコーディング合宿の間、様々な紆余曲折を経て最終的に素晴らしいテイクを産んだ際、メンバー間に湧き上がった
感動が切々と伝わる文章であるので、是非一度はシートに目を通して頂きたい。
ルーツ・ミュージックを愛好する方は勿論、余り馴染みのな若い世代にこそ新鮮に響く音だと思う。是非お試しを。