副題には「ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?」とありますが、その点に触れているのは全体の4分の1程度。フォント・デザインにまつわるあれやこれやから、ヨーロッパの手書き文字の特徴に至るまで話題は多岐に渡ります。
「形が目立つってことは字の形に邪魔な要素があるってこと」と著者が記す通り、人はそもそもフォントに注視して文章を読むことはありません。本書によって、目の前にありながら意識せずにいたものに気づかされると、どこか得した気分を味わえるのです。
ルイ・ヴィトンのロゴのフォント=Futuraが古代ローマの建造物に刻まれた書体を基にしていて、だからこそ「王道感」を与える効果を持つこと。
重厚感のある古いドイツ文字(ブラックレター)が各国の新聞の表題やビールの銘柄表記に使われているのは、文字のもつ伝統が安心感や信頼感につながるから。
タイプライターっぽいCourierが映画『
ハート・ロッカー』や『
ジョニーは戦場へ行った』に使われているのは、その事務書類風な字体が戦争の無機質で無表情な姿を表すのに適しているから。
フォントの背後にある歴史的経緯とその効果の関係についてのこうした説明は、ひとつひとつ胃の腑に落ちる思いがしました。
後段、著者が暮らすドイツの人々の手書き文字の特徴に触れた部分に思うところがありました。
私は高校から大学にかけてオーストリア人女性と国際文通をしていましたが、彼女の書くドイツ語の手書き文字に慣れるまでは解読に苦労した記憶があります。本書にあるように、uとnがほとんど区別ないように見えるドイツ特有の筆記体は私の友人の手紙にも見られたものです。
また彼女が亡くなったことを知らせるお母さんからの手紙は本書が「絶滅寸前」というズュッタリン筆記体で書かれ、uの上にnではないことを示す記号も付されていました。
このくだりを懐かしくも悲しい想い出とともに読みました。