本書は1948年に生まれ82〜85年にオランダに留学した美術史研究者が、1999年に刊行したオランダ人画家ヨハネス・フェルメール(1632〜75年)に関する本である。彼はオラニエ家に縁の深いデルフトの、宿屋・織物業・画商を営む家に生まれ、市外での修業(おそらくはファン・カウエンベルフに師事)の後、1653年にカトリックに改宗して富裕な名門の女性と結婚し(まもなく付近にあった妻の実家に義母と同居している。21頁に推定の間取り図がある)、画家・画商として独立した。まもなく彼は美術市場の要請によって物語画家から風俗画家へ転身し、同時代の絵画を参考にして空間処理(透視法と視覚印象の融和)の方法や描法を模索し、60年代には多くの傑作を生みだした。彼は年に数点というゆったりしたペースで作品を制作し、市の内外で高い評価を受けながら、総勢14人ほどの家族を養ったが、60年代末からはフランス軍の侵攻への対処や義母の債権の回収に手間取り、その作品に質の低下がみられるという(ただし、新たな手法を模索していた可能性もある)。彼の作品の特徴は、同時代の風俗画の構図に影響を受けながら、モティーフの厳選や行為の欠如によって、ありうべき現実のような教訓的意味合いを意図的に排除した点に求められるとされる。しかし、資料不足や画商の思惑などがフェルメール研究に影を落とす中、20世紀にはファン・メーヘレン贋作事件が起こり、未だ彼の現存真作数も確定していない(10〜11頁)。著者はこの贋作事件から、堅実な研究に基づき平易で具体的な言葉で彼の作品を分析する必要性を痛感し、自ら本書でそれを実行している。以上のように本書は、フェルメールに関する専門的かつ包括的な内容を比較的平易に論じた本であり、彼に関心のある人には必読文献であろう。