本書の冒頭の文を引用します。「オランダの画家、ヨハネス・フェルメール(1632-75年)は、カメラ・オブスクラを用いて絵を描いた。本書では、彼がどのようにそれを用いたのかを正確に示そうと思う。カメラ・オブスクラというのは、写真用のカメラの前身で、ピンホール(針穴)の開いた、あるいはレンズのついた簡単な装置である。」と本書の意図が簡潔に述べられていました。
光の像がスクリーンに浮かび上がり、それをなぞることで遠近法などを会得する手法です。17世紀のオランダ美術についてこれまで多くの著作が表されてきました。大人気のフェルメールですから、類書でもカメラ・オブスクラについて論究された本も複数読みましたが、300ページ近くをこの点に絞って詳説した功績は大だと言えるでしょう。
フェルメールが光に着目し、それを絵画上で再現しようという試みについてはすでに類書で述べられています。彼の光の特性を捉える高い能力が作品の素晴らしさを際立てていると思っています。
本書の41ページにも書かれていますが、デッサンやスケッチも残っていませんし、絵の技法を明らかにできるものも実在しません。フェルメールが光学装置を用いて絵を描いたという指摘は従来からあったわけですが、それを実証的に解明し、98ページで示すように作品の比較解明をした手法は斬新だと思います。特にそれぞれの作品が部屋のどの位置から眺めたものかを示した図49、50は貴重な発見だと思います。カラー図版の5から10では、空間を再現して撮影した写真と実際の作品を並べて掲載しています。これはとても興味深い例示でした。
筆者のフィリップス・テッドマンは、ロンドン大学大学院建築学・都市計画研究科教授で、本書でも実験しているように描かれた空間の3次元的再現を試みている研究者です。訳者の鈴木 光太郎氏は、新潟大学人文学部教授で、実験心理学の研究者です。
なお、訳者あとがきの「オランダの光」に関する説明も参考になりました。注、索引も豊富で、研究書ですが美術愛好家が読んでもさほど難解ではないでしょう。コアなフェルメールファンには朗報だと思いました。
本書の章立てです。カメラ・オブスクラ、カメラ・オブスクラを用いたという発見、カメラ・オブスクラを教えたのはだれか?、描かれた部屋はどこにあったか?、フェルメールの絵の空間を再現する、謎に迫る、フェルメールのアトリエを再現する、反論に反論する、フェルメールの絵の様式への影響