フィールドワークは近年人類学のみならずさまざまな分野で用いられるようになった
質的調査の代表的な手法ですが、本書はこれを、実際の演習をなぞるかたちで紹介する、わりと珍しい(?)本です。
前半は、長年京都大学の人類学者として教鞭をふるってきた菅原先生が、
これまで溜まりに溜まった調査演習のレポートを振り返って、
学生達が調査計画を立て、フィールドワークをし、レポートにまとめ上げるまでの過程を振り返って論評。
後半は菅原ゼミで実際に卒論・修論を書いた学生達が、
その調査の動機づけ、始まりの苦労から論文としてまとめ上げるまでの過程を、その成果を含めて
わかりやすくまとめています。
本書がすばらしいのは、まず先生が率直にフィールドワークとはなにかという自身のフィールドワーク観、
およびどのようなことを自身の担当してきた演習授業に対して考えているかを述べている点です。
授業に対して(そして著書に対して)しっかりしたポリシーがある、というのは教師として不可欠ですが
それだけでなく、読者がどうこの本を読めばよいのかみちすじをつけてくれるという点でもありがたいところ。
もうひとつ私がよいと思うのは、本書後半部分の筆者たちを含め、
本書に登場する学生がかならずしもその後研究者への道を歩んだわけではなく、
だからといって、研究者を目指さなかった学生が学問的に劣ったレポートを書いたわけでもなければ、
研究者を目指すかどうか出先生の態度が変わっているわけでもないという点です。
大学の教科書を書くのは大学の先生(=研究者)なので、どうしても視点が研究者びいきになります。
しかし実際、大学でフィールドワークの授業を取る学生の大半は普通に学部生を終えれば企業に就職します。
そういう(普通の)人たちが、大学のこの授業でなにをしたのか、なにを得たのかが公平な視点からわかるというのは
多くの学生にとってひとつのロールモデルを提供するのではないかと思います。
そんなわけで、本書は学部生向けの教科書として、またフィールドワークの楽しさを知る事のできる一般向けの本として
かなり優れているのではないでしょうか。