本書は科学技術立国フィンランドの、国家(主導型)イノベーションシステム(NIS)について、その理論的背景や歴史、今後の展開について理論的に考察したものです。
本書の前半では、まずNISという概念がどのように発生し、それがどのようにフィンランドで受容されたのかを解説します。NISは進化経済学や制度論など非主流派経済学の枠組みから発生し、イノベーション・ネットワークの研究の中で位置づけられました。また「学習する経済」という見方から国家を、そしてイノベーションにおける国家の役割を考察します。フィンランドは60年代に国立イノベーション基金を設立し、70・80年代に大学などを通じて国家がイノベーションにテコ入れをしていきます。そして科学政策と技術政策と統合するためにNISの概念が援用されました。これらが背景にあって、フィンランドは知識を競争力の基礎とし、R&Dと教育に対する投資を不況期にも維持し、政策として知識集約分野のサポートをすることを定めました。
このNIS概念の導入によって、TEKES(フィンランド技術庁)が設立されて、R&D投資の資金提供者として急成長したほか、OSKE(地域専門センター)設立によって地域でイノベーション政策が可能になったこと、クラスタープログラムが発足したことなどがあります。また高度専門技術者不足を解消するために、教育改革も行われています。
こうして成功を収めたフィンランドの国家イノベーションシステムも、限界を孕んでおり、著者は後半でその考察を進めます。ネットワークは特に小国では国境を越えて組織されることも多く、地域のみに限定していてはいけないこと、政策立案過程自体も診断し、イノベーションを図る必要があること、そしてトップダウンのイノベーション政策から、ICTに見られるような旺盛な実験を促進するボトムアップ型の政策体系の必要性を提起します。
本書はNISに関して、かなり専門的な立場で、しかも幅広い領域のアプローチから考察しているため、読み解くのは少々難しいと思います。しかし、それゆえにNISについて網羅された内容でもあります。世界経済のトップを疾走するフィンランド、または北欧のイノベーション政策について理解するには欠かせない一冊です。