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フィレンツェ―初期ルネサンス美術の運命 (中公新書 (118))
 
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フィレンツェ―初期ルネサンス美術の運命 (中公新書 (118)) [新書]

高階 秀爾
5つ星のうち 4.8  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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登録情報

  • 新書: 219ページ
  • 出版社: 中央公論新社 (1966/11)
  • ISBN-10: 4121001184
  • ISBN-13: 978-4121001184
  • 発売日: 1966/11
  • 商品の寸法: 17.2 x 11 x 1.4 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.8  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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 「あとがき」を読んで、本書の発行年が1966年だったことに初めて気がついた。それ程までに文章はみずみずしく40年の歳月を感じさせない。良書とはこういうものを指すのだろう。
 イタリアンルネッサンスはダンテなどの先駆者がいたとはいえ、その本格的開花は、15世紀初頭のフィレンツェに始まり、15世紀末のフィレンツェに終わった。本書はその一世紀を詳しく展望する。
 イタリアンルネッサンスは平和のなかで発展したのではなかった。外にはビザンチン帝国を滅亡させたトルコや、スペイン、フランスといった大国の干渉があり、内には都市国家間の抗争が絶えなかった。都市国家内部でも熾烈な争いがあった。フィレンツェ共和国も例外ではない。そのなかで共和国の最大庇護者であり、結果的に最大破壊者にもなったメディチ家無しにルネッサンスを語ることは出来ない。実にフィレンツェの職人たちはコジモ・ディ・メディチの庭園で画家・彫刻家・建築家へと変貌を遂げ、孫のロレンツォによって、フィレンツェ親善大使として各都市国家に送られ、それきり戻ってこなかった時にフィレンツェ・ルネッサンスは終わったのだ。
 本書は同家をバックグランドに据えてフィレンツェ芸術のこのような消長の模様を判りやすく語る。なんと多彩な人材をフィレンツェは生み出したのだろう。その一人ひとりが芸術を少しずつ前に押し出して行く姿は読み応えがある。それにしても芸術家たちは何故他都市に出たきり帰ってこなかったのだろうか。筆者は中期以降のフィレンツェ市民たちが、ロマンチックを好む態度に変わったからだとする。アンニュイという言葉は使われていないが、そうゆう形容がぴったりする状況だったと思う。
 ルネサンス美術3大発明と言えば、透視画法(遠近法)、油絵、キャンバスと言われる。同書はキャンバスには触れていないが、その代わりに「御国趣味」を上げる。トルコという「異教徒」国家と国境を接したことで、双方に与えた文化的衝撃の大きさは計り知れないものがあっただろうと推察できる。
 しかし、筆者が特にショックを受けたのは、本書の「透視画法」に対する説明である。遠近法によって、画家は世界をあるがままに描く技術を手に入れたとばかり思っていたのだが、著者は、画家がこれによって本当に手に入れたのは、「『現世世界の再現』というよりも『秩序世界の追求』」であり、「そこには現世世界にはっきりと背を向ける『歪んだ透視画法』の萌芽さえ見られる」という。確かに挿画されているアンドレア・ディ・ジュストの《キリストと使徒たち》は建物の隅を視点に捉え、教会の内部と外部を同時に見せるという、リアリズムを遙かに超えた、画家自身が統合する世界を描いていて秀逸である。これだけをながめてもルネッサンスは芸術を越えて、近代世界を創出したに足る一大運動だったことが判る。
 ルネッサンス最大の芸術家とされるとダ・ヴィンチとミケランジェロにはあまり触れられていない。ダ・ヴィンチは活動の本拠をフィレンツェからミラノ、パリへと移し、ミケランジェロも後半期はローマへ移った。本書を読んでの筆者の理解は、彼らはポスト・ルネッサンスの芸術家とされるべきであろう。フィレンツェは落日の中で、二人の巨人を産み落としたと言えるであろうか。
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私が初めてこの本を読んだのは学生時代で、まさにフィレンツェに行こうと決心した時だった。そして高階氏の文章に魅せられルネサンスの魅力を満喫できたと同時に知り得た事は、ルネサンスを生み出した自由で進取の気風に富んだこの都市も、実は他にも増して伝統を重んじ、芸術的な洗練という意味では非常に頑なな趣味に固執していたということだ。その一例として紹介されているのが、1401年のサン・ジョヴァンニ洗礼堂の扉のコンクールだ。同業者組合はドラマティックで当時としては前衛的ともいえる作風のブルネッレスキより繊細なギベルティを好んだ。しかし結果的にコンクール制度の始まりは実力主義を根付けさせ、批判精神を培い、職人が競ってさまざまな分野に活動を広げる地盤を築いた。皮肉にもフィレンツェのシンボルとなるサンタ・マリア・デル・フィオーレのドームはブルネッレスキの天才の技が成し遂げた勝利だった。

高階氏はその後フィレンツェ出身の多くの天才達が、この都市から次第に離れてしまうことに目を向けている。何故ならフィレンツェ共和国の、そして何よりもメディチ家の当主であったロレンツォ・マニフィコは、芸術の庇護者というより、外交手腕に長けた画策家であり、彼らを一種の外交手段として他の都市に送り込み、作品の製作に従事させた。その良い例が、バチカンのシスティーナ礼拝堂側面のキリスト及びモーゼの生涯だろう。その理由はパッツィ家の謀反に関与していた法王シクトゥス4世との和解の使者として彼が秘蔵っ子の画家達をローマに送り込んだからに他ならない。しかしそうした彼の政策は芸術家達のフィレンツェからの流失につながり、当時の社会的情勢と相俟ってフィレンツェに決定的な斜陽と衰退を招いてしまう。ルネサンスの入門書として是非お勧めしたい一冊だ。
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12 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
 クヮトロチェントロ(1400年代)のフィレンツェを中心にした美術の興亡を、高階秀爾氏らしい詳細に踏み込みながらも丁寧で分かりやすい文章で紹介した作品です。

 フィレンツェという都市が、いかにしてルネサンスのような画期的な芸術界の新世界を導いたのか。またいかにして「芸術の都」フィレンツェが凋落していったのか、改めてよく理解できました。フィレンツェ人の芸術への高い理解と気風が、フィレンツェ芸術の栄光と衰退の両方の原因となったという氏の説得力に満ちた説はとても興味部会ものがありました。

 また作品中で紹介されているボッティチェリ(BOTTICELLI, Sandro)の《ミネルヴァ(パラス)とケンタウロス》についての読み解きは、この時代の芸術家達の思考を端的に表現しているようで面白いです。

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