もしかして山本文緒は短編のほうが腕を生かせるのではないか、と思う冴えた短編集だ。
これはすべて「自分の体験」であるはずはないから、友人知人から拝借したものや、時には想像も混じっているのだろう。
山本の場合、ある程度登場人物との距離がとれたほうが、「語り」としては完成されたものになるようだ。
特に印象に残るのが「車」「バンド」である。
著者は無免許だそうなので、これは完全に「自分」ではないと思われる
冒頭から読者を引き込む見事な出来と思う。
最優先事項が車、であってそれが女性、というところが新鮮だ。男性なら珍しくもない。
不倫をする先輩の描写と、先輩と主人公との距離感も絶妙に描かれている。この一編だけでも、作者の並々ならぬ観察力がうかがえる。
「バンド」を読んで、「あれだろ」とモデルの存在を確信した。十数年前に、最強のボーカリストとかいって登場し、一発屋で消えていった中性的な歌手だ。
また、バンドのボーカリストの女の子は、一時期ロリコン男性の萌えを独占し、数年前に解散したバンドのあの子がモデルだろう。
これくらいはっきりしたモデルがいる小説となると、フィクション度が高いのだろう。だが、著者の語りの世界には抵抗できない。
あのボーカリストが、このような内面を持っていても、現在こんなふうに暮らしていたとしても、「全然あり得る」。
また、女性の書き手が避けるであろう「名器」の問題にあえて挑んだことも、評価したい。
「いつか誰かがそういうことを言ってくれる」と思っていたら、山本だった。
「車」や「マンション」や「バンド」と並列に「名器」すら何気なくファーストプライオリティの一つに加える、というそのセンスは賞賛したい。
最優先事項であると認識したからこそ、主人公が取り扱いを慎重にすることにした、というのも「妹たちへ」のメッセージとしては優れている。
どうかこれで少しでも多くの女の子が救われますように。