1969年のアポロ11号月面着陸時、当時の担任の先生が授業時間をつぶして着陸の様子をテレビで見せてくれたことは今でも鮮やかな思い出だ。
SF映画の最高傑作「2001年宇宙の旅」前年の1968年に作られ、人類の宇宙への憧れが最高潮に達した時代だった(そして、ベトナムに介入していたとはいえ、ある意味アメリカの黄金時代でもあった)。
それから38年、人類で最初に月を踏んだ人間であるにも関わらず、立花隆さんの『宇宙からの帰還』にもあまり触れられていない(彼は取材を断ったそうだ)ニール・アームストロング船長の詳細な伝記が本書である。
本書にはアームストロングの生い立ち(先祖にさかのぼって詳しく描かれている)から、パイロット時代、家庭生活、アポロ計画で最初に月を踏む男に選ばれ、月着陸を果たし、地球に戻ってから熱狂的な騒擾に振り回され、大学という象牙の塔に引きこもってから現在に至るまでの足跡が極めて仔細・率直につづられている。
二番手に甘んじたバズ・オルドリンのライバル意識(月面でのアームストロングの写真がないのはオルドリンの対抗意識のせいでは、とほのめかされている)や、妻ジャネットの苦悩、「ファーストマン」の名声故の葛藤、さらに「ライトスタッフ」で神格化されたチャック・イェーガーの、アームストロングに対するいささか根拠のない批判に対する反論など、興味深い記述が尽きない。
エリート軍人である父に競争原理を徹頭徹尾たたきこまれたオルドリンが、地球に戻ってから精神を病んだのに比べ、「ファーストマン」のアームストロングが淡々と自己を保持しえたのは、もともと安定した性格にもよるだろうが、清教徒的勤勉さと謙虚さという今は見失われがちなアメリカ社会の良質な部分を彼が体現していたからではないか、という感想を持った。