ドイツ人の闇に深く切り込んだディストピア的推理小説。
殺人事件が少しずつ政治問題に変化していく過程は秀逸。第6部の中で主人公マルヒの発した「我々にはそれがどういう意味か分かっていたはずだ」の一節には圧倒された。そう全く知らない筈は無かったのだ。ただ、誰もがその直視を恐れただけなのだ。そして彼は、ナチスが犯した数々の罪をただ1人で受け止めようとする。その誠実な態度に感銘を受けた。
加えて政治体制に立ち向かい、あくまで真実を追求しようとする主人公の姿勢に頭が下がる。誰もが傍観者であるべきだと考える社会において、そして「それが仕方がない」と受け止められてしまう社会において、どのように生きるべきなのか。それを示してくれた気がする。
しかし同時に、それが理想にしか過ぎないことにも。第7部のイェーガーの言葉にもまたある種の真実が含まれている。「人間はぜんぶがぜんぶ英雄になるようにはつくられていない」のだ。