本書のSF的アイデアは、充分読むに値すると感じました。ストリンガーやファントマとの駆け引きに関するくだりは、SF的センスオブワンダーを感じます。
ストーリーの勢力図としては、ホーガンの『揺籃の星』シリーズに似ています。テクノロジーで決定的優位に立つ宇宙勢力(AADD)と、劣勢に置かれるが故に無為な対抗心を燃やす地球勢力(GLA)は、『揺籃の星』のクロニア人と地球人の対立図に似ています。そこに人智の及ばない脅威が出現し、テクノロジーに優れる宇宙勢力が地球人に救いの手を差し伸べる、みたいな。
しかし、『ルナ・シューター』の時から顕著なのですが、人物の造形・描写力が致命的に欠けており、結果として読み進めるのが非常に苦痛でした。先述のようにSF的アイデアは優れているので、人物は記号程度の扱いに止め、SF的アイデアの展開に集中してくれたらよかったのですが、物語の大半は人物描写で進んでいくという・・・orz
物語に登場する主要組織(AADDとGLA)の要職は女性ばかりなのですが(紫怨、姫星、アキノ)、いずれもアニメのツンデレ系で、性格設定や言葉遣いがほとんど同じなので、読んでいて頭の中で人物像を描きにくく、物語への感情移入を非常に難しくしています。
また、いずれの女性も、ひとことで言うと有力組織の要職に就く人物としてリアリティがありません。驚くほど傲慢かつ独善的かつ感情的。周りの人間を常に見下さないと気が済まない。ほんの些細な会話の中でも勝ち負けを付けたがる。自分の周囲を天動説で捉えたいが、周りの人間が自分の思いどおりに動くはずもないので、常にイライラしている。
こうした性格が、紫怨、姫星、アキノの発言の端々に現れます。部下や同僚が何か発言するたびに、
「当たり前のことをいちいち口に出すな」
「そんなこと、言われないと分からないのか」
「そんなふうに考えてるなら、認識不足だ」
「お前は馬鹿か」
「主義主張もない金で雇われた奴は、余計な口を出さずに卑屈に自分の仕事だけしていろ」
などなどなど、小説ながら読んでいて非常に不快になりました。これが現実なら、同僚には相手にされなくなるでしょうし、部下は萎縮して発言しなくなるでしょう。こんなコミュニケーション能力とピープルマネージメント能力が皆無の人間が中心となって、人類の存亡を揺るがす大問題を解決できるとは、到底思えませんでした。
人物描写についてさらに駄目押しをすると、女性達の言葉遣いに強い違和感を覚えます。ベースは「〜だ」、「〜だろう」、「〜しておけ」といった男言葉なのですが、私の周囲にいる仕事を持った女性達で、こうした妙な言葉遣いをする人は一人もいません。ミーティング中にこんな言葉遣いで話し始めたら、「おいおい、姫星さんどうしちゃったの?」と騒然となること請け合いです。
きつい言い方になりますが、『ルナ・シューター』で痛い目をみたにもかかわらず本作を買ったのは、ひとえに日本におけるSFの弾数自体が少ないからです。しかし、このままの作風が続くようであれば、さすがに著者の次回作は購入を見送ろうと思っています。