五時間を超える巨大な作品だが、内容はかならずしも重たくはない。またそう難解な話でもない。
しかしこの長大な持続の中にじつに豊かな内容が溢れている。
以前見た三時間版ではいささか釈然としないところがあったが、やはりオリジナル版を見てこそ
納得のいくものだった。もともとテレビ物として制作されたので、劇場映画のような緊密さや
ここぞというところでの表現の強烈さは少ない。そのかわり描写のきめ細かさや悠然とした流れから
醸し出されるイメージの美しさや雰囲気の心地よさが豊かな印象としてしみ込んでくる。
20世紀初頭のヨーロッパ・ブルジョワ家庭の豪華さ、しかしその成員の意外な俗っぽさ、女性達の
活力やそれらを大きく取り囲む性の世界。聖職者の偽善。不思議なユダヤ人たち。役者たち。さまよう
亡魂たち。それらを澄んだ目で眺め、また彼らとかかわって幼少の一時期を過ごす兄妹ファニーと
アレクサンデル。この題名役の二人は意外にも台詞が少ない。とくに妹ファニーは寡黙である。子役を
使って可愛らしさを強調したり、お涙ちょうだいをするのは通俗ドラマの常套手段だが、本作にその
気味は殆どないといってよい。ファニーにあまり目立つような動きをさせなかったのには実は深い
意味合いが込められていたのかも知れない。そのあたり「女」を描き続けたベルイマンの面目躍如
と言えるかも・・・。
エンディングはちょっと物足りない感を与えかねないが、アレクサンデルに投げかけられる「逃げられ
ないぞ」という一言は強い象徴性を帯びて見事である。それはベルイマン自身の人間的な運命であり、
また芸術家としての運命なのだろう。そして私たちすべての人間をも呪縛し、苦しめ、同時に
高めもするするものだと思われるのである。